いつか明るい空の下で
日付が変わる頃、都会の住宅街は静まり返っていた。それでもたまには窓に明かりが見えたし、数分に一度は誰かとすれ違った。夜道は外灯に照らされていて、夜中のわりには意外と明るい。 そのへんに転がっている石ころも、人の家の表札も、肉眼ではっきりと見えてしまうのだ。
この状況では、道端でおしっこをする事はできそうになかった。だから僕は、それができる場所を必死に探していたのだった。
キョロキョロ周りを見て歩くと、やがて良さそうなポイントを見つけた。 相当前に潰れてしまったような、コンビニの敷地内がそれだ。
小さな平屋の店舗は、入口が板で塞がれている。 その周りには不法投棄されたようなゴミがあちこちにあって、人が近寄るような雰囲気はまったくない。
そこを通りかかった時、僕はゴミの山を乗り越えて店舗の裏手に回った。
真っ暗なその場所には、業務用の陳列棚や机などが雑然と並んでいた。 それは恐らく、店舗の中から運び出された物たちだろう。
僕は我慢が限界に近付いていたので、傾いた棚の後ろへ行って今すぐおしっこをしようと思った。
ところがパンツを下ろす寸前に、背後でガサッと物音がしたのだった。
びっくりして振り返ると、すぐそこに人が立っていた。
ここなら誰も来ないと思っていたから、それが分かった時は本当に驚いた。
最初は影しか見えなかったけど、暗闇に目が慣れるとその姿が徐々にはっきりしてきた。
髪が短くて面長で、身長は僕よりずっと高い。黒い洋服を着ているせいか、その時は顔だけが際立って白く見えた。
その人が近付いてきた時、僕は反射的に後ずさりをした。
だけどそこには逃げ場なんかなかった。左も右も机や棚に囲まれていたし、背中の後ろには冷たい壁が立ちはだかっていたのだ。
夏の夜の風が、若い男の香りを運んできた。
彼が目の前に迫った時、僕は突然胸がドキドキしてきた。優しそうなその目と濡れた唇が、僕の好みにピッタリだったからだ。
「ねぇ、おしっこするところを見せて」
囁くようにそう言われると、今度は体がブルッと震えた。
僕は好きな人に対しては従順だ。
でもそれだけはダメなのだ。それだけは、どうしても聞き入れる事ができないのだった。
今僕は、ピンク色のミニスカートをはいている。胸がすごく苦しいのは、慣れないブラジャーを身に着けているせいだ。
ロングヘアーはかつらだし、長いまつ毛もにせものだ。
すべてを嘘で固めているけど、今の僕は誰の目から見ても女の子だ。 つまり彼は、女の子がおしっこするところを見たくて僕を追ってきたに違いないのだった。
「君はおしっこがしたくてここへ来たんだろ? だったら、早くやって見せて」
何も知らない彼は、淡々と言葉を続けた。
でも僕がペニスの先からおしっこを出したら、絶対がっかりするに決まっている。 僕は彼をがっかりさせたくないから、言う事を聞くわけにいかないのだった。
「ねぇ、早く」
何度も急かされると、さっさとここから逃げ出したくなった。 でも逃げ道は塞がれていたし、それ以前にもう走り出す事すらできなくなっていた。 我慢はすでに限界を超えていて、下手に動くと今すぐおもらしをしてしまいそうだったのだ。
そんなつもりはないのに、どうしても膝がガクガクと震える。
日中は暑かったけど、さすがにこの時間になると風は少し涼しい。 夜空を見上げると、雲の陰に隠れた月がゆっくり姿を現そうとしていた。
僕はその瞬間に、パンツを少しだけ濡らしてしまった。
その程度で済めば良かったのに、数秒後には激しい勢いでジャージャーおしっこが溢れ出してきた。
パンツで吸収し切れなかったおしっこが、僕の太ももを撫で、膝を撫で、最後は地面に呑み込まれていく。
同じ立ちションでも、パンツを下ろすのと下ろさないのとでは大違いだった。 大量のおしっこでパンツが温められると、ペニスに蒸しタオルを当てられたかのような感触が走る。
スカートの裾をぎゅっと握っても、膀胱の緩みは止まる事を知らない。 引き金を引いた自覚はまったくないのに、ペニスは水鉄砲のごとく熱い水を乱射する。
こんな所でおもらしするなんて、まったく予想外だった。しかも人前でそれをやってしまうとは、本当に夢にも思わなかった。
とても恥ずかしかったけど、もうどうしようもなかった。
ペニスが熱い。太ももも熱い。まるで下半身にだけ、熱いシャワーを浴びているかのようだ。
夜空の月が完全に姿を現すと、何故か目の前が真っ暗になった。
でもきっと、彼にはすべて見えていたはずだ。 おしっこが足を伝う様子から、地面に呑み込まれていくところまで、全部見えていたに違いないのだ。
「見ないで……」
僕の声は、大きく響くおしっこの音にかき消された。膝の震えが止まったと思ったら、今度は腰が抜けそうになる。
そんな僕を抱き締めてくれたのは、優しい目をした彼だった。
おしっこを全部出し切ると、辺りは当然静かになった。
力強い腕に支えられて、僕は何とか立っていた。彼の胸に顔を埋めると、男の香りを肌で感じた。
「ありがとう。素敵だったよ」
そう言われた時に、やっと自覚した。僕は彼の前で、最後まで女の子であり続けたのだ。
彼は女の子がおもらしするところを見て満足したようだった。 だからこそ、「ありがとう」と優しく囁いてくれたに違いないのだ。だったらきっと、これで良かったのだ。
僕はそう思ってほっとしたけど、それはほんの束の間の事だった。
ある時、いきなり彼の手がミニスカートの下へ入り込んできた。
そんな事をされるとは思わなかったから、僕は不意をつかれて何も反応する事ができなかった。
彼の手がスカートの下でもぞもぞと動き、やがてびっしょり濡れたパンツの内側に5本の指が突っ込まれた。
ここまでの自分の行いにやっと納得しかけたのに、そんな思いは一瞬にして消えてしまった。
小さなペニスの先に、細い指がそっと触れる。するともぞもぞ動いていた手が、急にピタッと止まった。
その時、僕の目から自然に涙が溢れてきた。瞼の奥に、彼の真っ白な顔が浮かび上がる。
もうお終いだ。僕が男である事が、とうとう彼にバレてしまった。
それが分かると、僕は絶望的な気分になった。
「もう分かっただろ? 僕は男だ。分かったら、もう離して……」
それでも彼は、なかなか離してはくれなかった。パンツの中に入った手も、まだ退散する気配は感じられない。
「お願いだから、離して」
それはひどい涙声だった。僕は彼を突き放して、自らここを立ち去りたいと思った。
しかし彼は、強い力で尚も僕を抱き締めていた。
するとその後、信じがたい奇跡が起こったのだった。
「最初から、全部分かってたよ。俺は男の子にしか興味がないから」
興奮気味なその声が、僕の耳に大きく響いた。それと同時に、体に稲妻が走ったかのような衝撃を感じた。
「あぁ……!」
パンツの内側で彼の指が動いた。5本の細い指が、僕のペニスをゆっくりと擦り始めたのだ。
すごく気持ちが良くて、心も体も変になりそうだった。
何度も腰が砕けそうになったけど、その時はいつも逞しい腕に支えられた。
僕が数分後に射精してしまった事は、もちろん言うまでもない。
僕たちはその後、再会を約束して別れた。おしっこと精液を浴びたパンツは、彼が今夜の記念に持って帰った。
僕は好きな人に対しては従順だ。
だから今度会う時には、明るい空の下でおしっこするところを彼にじっくり見せてあげたいと思った。
END