罰ゲーム 8
 「土曜日、俺の家に泊まりにこいよ」
僕が智行にそう言われたのは、木曜日の放課後の事だった。
僕は今までに何度も智行の家へ泊まりに行った事があった。 でもこの次彼と一緒に過ごす夜は今までとは少し違う夜になるだろうと思っていた。

 土曜日の放課後。僕は一旦智行と別れて家へ帰り、すぐに制服を脱ぎ捨ててお気に入りの洋服に着替えた。
先週たっぷり濡らしてしまったビンテージもののジーンズをはくと、たったそれだけで少し興奮してきた。
赤いティーシャツを頭からかぶり、姿見に自分の姿を映しながら手櫛で髪を整える。
僕の髪はいつの間にか随分伸びていた。 横の髪は耳にかけられる長さになっていたし、後ろ髪も肩のラインをかなり越えていた。
昨日の夜、とうとうママに髪を切りなさいと言われた。でも僕はもう少しこのまま髪を伸ばしてみようと思っていた。
僕の髪が智行の頬に触れると、彼はくすぐったそうにしながら優しく微笑むんだ。
僕はもう少しその笑顔を見ていたいから、髪を切りに行くのは少し先延ばしする事にした。

*   *   *

 智行の家は僕の家から歩いて10分ぐらいの所にあった。
僕は早く彼のそばに行きたくて、最初はその道のりを早足で歩いた。
幅の広い通りへ出ると、バスや車がどんどん僕の横を走り抜けていった。そして僕は車に負けないぐらいの勢いで走り始めた。
今日の空は晴れていた。僕は青い空の下を本気で走り続けた。
その途中、ゆっくり歩く女の人や友達とじゃれ合って歩道をふさぐ小学生たちとすれ違った。
土曜日の午後はなんとなく皆がのんびりしているように見えた。でも僕だけは額に汗を浮かべて必死にアスファルトを蹴っていた。
そんな僕の行く手を阻んだのは、正面に見えてきた赤信号だった。 ゆっくり歩く女の人や歩道の上でじゃれ合う小学生の横はすり抜けられても、さすがに赤信号を無視する事はできない。
逸る気を抑えてしかたなく横断歩道の手前で立ち止まると、目の前を走り去る車の列の向こうに家電量販店が見えた。 そして店の入口の前にはいつものようにズラリと自転車が並んでいた。

 僕はその光景を見つめるといつもあの日の出来事を思い出した。
5月のある日。智行と2人で学校から帰る時、僕たちは目の前に赤信号を見つけて横断歩道の手前で立ち止まった。
あの日もよく晴れていた。あの頃はしばらく雨の降らない日が続いていて、歩道のアスファルトはカラカラに乾いていた。
でも僕はあの日、灰色のアスファルトの上に降り注がれる雨を見た。
僕に背を向けて立っていた、ベージュのショートパンツをはいた男の子。 彼は僕の目の前に温かい雨を降らせ、足元に黒く丸いシミを作り上げた。
その様子を見た時、僕の頭にもう忘れかけていたあの感触が鮮明に蘇った。

 実は僕にもあの男の子と同じような経験があった。
小学校3年生の時放課後学校でトイレに行きそびれ、僕は強い尿意を堪えながら急いで家へ帰った。
でも家の前へ辿り着いた時、とうとう我慢ができなくなってその場でおもらししてしまったのだった。
あれはたしか学校が夏休みに入る少し前の事だった。
夏の太陽は地面を強く照らしていて、乾いた土は白っぽくなっていた。
でもおもらしをした途端に僕の足元だけ土が湿って真っ黒な色に変わっていった。 そして青いショートパンツの前の方だけが濡れて徐々に紺色に染まっていった。
一度溢れ出したおしっこを止める事は不可能だった。
パンツはひどく濡れてしまい、温かい雫が次々と太ももを伝って流れ落ちていった。 それは汗が流れ落ちる感触とはまったく異なるものだった。
きっとおしっこが止むまでの時間は10〜20秒ぐらいの短い間に過ぎなかった。 でも気づくと僕はその短い時間をすごく楽しんでいたのだった。
ギリギリまで我慢した末のおもらしは、表現しようのないほど気持ちよかったんだ。
あの瞬間は失敗したとか恥ずかしいとか、そんな事は微塵も考えなかった。 太陽に見つめられておもらしするという行為は、快感以外の何物でもなかったからだ。

 でも当時の僕はおもらしを繰り返して何度もあの快感を得るような事はしなかった。
おもらしした事が後からママにばれてしまい、随分ときつく叱られたからだ。
でも、僕の体はあの快感をちゃんと覚えていたんだ。

*   *   *

 僕が智行の家へ着いたのは午後2時過ぎだった。
智行の部屋はいつもと何も変わりがなかった。特に模様替えをした様子もなく、ベッドの位置もテレビの位置もいつも通りだった。
でもテレビの前に座布団が敷かれているような事はなかった。そしてゲーム機は所定の場所に片付けられていた。
僕たちのゲーム対戦は、やはりすでに終わっていたのだった。
智行は短めの白いティーシャツの下に先週濡らしてしまったジーンズをはいていた。
そのジーンズに足を通す時、彼も少しは興奮しただろうか。
彼の部屋は日当たりがよく、その床に立つと僕は太陽の温もりに包まれる。でも今日は太陽の温もりだけではなく、智行の体温に包まれた。
「ナオ、好きだよ」
部屋の真ん中で智行に抱き締められると、すごく幸せな気分になった。
僕らの胸と胸がぶつかり合った時、智行の心臓の早鐘が体にしっかり伝わってきた。
彼はわりと細身だけど、少し筋肉のついた両腕が男らしさを感じさせた。
僕が彼の頬に唇を寄せると、智行はくすぐったそうな顔をして優しく微笑んだ。
智行の目はつり上がっているから、初対面の人には少し怖そうな印象を与える。でも僕はその目の奥の優しさを感じ取る事に長けていた。
僕は彼に身を預け、そのまま智行をグイグイと押して白く光る床の上に座らせた。 僕が彼の膝の上に乗っかると、一見怖そうな目がもう一度優しく微笑んだ。
もう梅雨入りしたというのに、空はこれ以上ないほどに晴れていた。黒く短い智行の髪は、逆行を浴びてテカテカと光っていた。
わずかに筋肉のついた両腕が僕を強い力で抱き寄せた。僕の股間はすでに膨らみ始めていた。

 「ねぇ、気持ちいい事しよう」
僕は智行の耳にそう囁いた。
彼の部屋へきてすぐにこんな事を言うなんてちょっとはしたないのかもしれない。でも僕はもう我慢ができなかった。
智行は僕のストレートな言葉を聞いて少し恥ずかしそうに目を伏せた。でも彼に異論はないようだった。
彼の背後にはベッドがあり、白いシーツが太陽の日差しを浴びて輝いていた。
智行は一旦僕を立ち上がらせ、それと同時に自分自身も立ち上がってジーンズを脱ぐ仕草を始めた。
彼の手が素早くベルトを外し、ジッパーを下ろし、ジーンズとトランクスを瞬時に足首まで下げた。
智行はもどかしそうに両足をジーンズから抜き出して、それからすぐ僕のベルトに手を掛けた。
僕はお気に入りのジーンズを脱がされるまでの間、ずっと智行の下半身に注目していた。
窓から入り込む明るい日差しの下に、堂々と彼のものが晒されていた。
彼のティーシャツは短かったのでジーンズを脱ぐとへそから下を覆うものは何もなくなっていた。
大きくなって上を向いている智行のそれはすでに僕の手を欲しがっているかのように思えた。
智行の手が僕のベルトを外し、そろそろジッパーを下ろそうとしていた。
でも僕はもどかしくて、とうとう自分の手を使ってお気に入りのジーンズをあっという間に脱ぎ捨ててしまった。
白く光る板張りの床の上に2枚のジーンズが投げ出され、明るい日差しの下に僕たち2人のものが向き合って晒された。
僕のものは智行のものに負けないほど大きくなって上を向いていた。そしてそれはもちろん彼の手を欲しがっていた。

 「早くしたい」
僕は智行の肩を掴んで彼を温かいベッドの上に押し倒した。 そして彼の隣に横になり、右手の指を使って智行の熱いものを素早く擦り始めた。
「ナオ、ちょっと待って」
今日の僕はあまりにも積極的すぎたのかもしれない。
彼はまだ心の準備ができていなかったのか、僕の手を軽く払い除けるような仕草を見せた。 しかし心の方は準備中でも下半身の方は準備万端だった。
そして智行の作った一瞬の間が僕にある事を思いつかせた。僕はまだまだゲームの続きを楽しみたかったんだ。
「ねぇ、どっちが長く我慢できるか競争しようよ」
僕は一旦右手の動きを止めて彼にそう言った。
智行の驚くような顔がすぐ近くにあった。枕もシーツも温かくて、太陽の香りがした。
「先に出した方が負けだからね」
智行は僕の提案に驚いていたようだけど、結局はすぐにそれを受け入れた。僕は彼が僅かに微笑んだのを見逃さなかった。
「…罰ゲームは何にする?」
「そんなの決まってるよ。僕、今日は絶対負けないよ。智行がおもらしするところ見たいもん」
僕は智行の問い掛けにすぐそう答えた。
彼はその後何かを言いかけたけど、僕の指が彼のものを再び擦り始めると何も言えなくなってしまったようだった。
ほんの数回指で擦っただけなのに、智行のものはもう濡れていた。
彼は苦しそうな顔をして瞼を閉じ、頭をのけぞらせて小さく喜びの声を上げた。彼はもちろん二度と僕の手を払い除けようとはしなかった。
「すごくいい…」
半分開いた彼の唇が微かに震えていた。彼が早い呼吸を繰り返すと、そのリズムと一緒に肩が揺れていた。
智行の頬は紅潮し、僕の指がますます濡れていった。外の日差しは彼の髪を光らせ、びっしょり濡れた先端にツヤを与えていた。
やがて智行の指が僕のものを捉えた。僕はその瞬間に目を閉じていた。
あまりにも興奮して、僕はすぐにいきそうになった。
智行の指はどうすれば僕が感じるかを全部知っているかのような動きをした。
時には先端に爪を立て、時には小刻みに全体を擦り付ける。
それが幾度か繰り返されると、体中に快感が溢れ、同時に体中から汗が噴き出した。それと同時に智行の限界が近い事もすぐに分かった。
彼の先端はおもらししたかのようにびっしょり濡れていた。それはきっとすでに少しずつ少しずつ性欲が漏れ出していたからだった。
"GAME OVER" は確実に近づいていた。智行はあと5秒ももたない。
それが分かった時、自然にスーッと体の力が抜けた。すると、僕の先端から温かい体液がどっと溢れ出した。
「あ…あぁ…」
すごく気持ちがよくて、僕は思わず声を上げてしまった。
体がピクピクと痙攣し、瞼の向こうの光が遠ざかっていった。


 「また負けちゃった」
僕はベッドの上で仰向けになったままそうつぶやいた。
智行は僕が射精してからすぐその後に続き、それからせっせとその後始末をしてくれた。
やがて彼はベッドを下りて床の上に立ち、1人だけトランクスを身に着けて下半身が丸裸のままの僕を見下ろした。
僕は太陽の温かさに包まれていた。そして射精を終えた後は心地よい疲労を感じていた。
「今、オムツを着けてあげるからね」
智行はにっこり微笑んでそう言った。見上げた彼の顔には少し汗が光っていた。
そして彼は紙オムツをしまってある押し入れへと近づいていった。

 そっと目を閉じると、再び智行がベッドの上に乗る気配がした。
足元でガサゴソと小さく何かが音を立てると、やがて彼の手が僕の両足を折り曲げて軽く開いた。
僕が胸の高鳴りを感じながら軽くお尻を持ち上げると、それを待っていたかのように智行がその下へ紙オムツを滑り込ませた。
しっかりと閉じた瞼の向こうに、明るい太陽の光を感じた。
射精を終えてしぼんでしまったものが柔らかい紙オムツで包み込まれると、僕はその瞬間に赤ちゃんに戻ったような気分になった。
「ナオ、かわいいよ」
一度大きくベッドが軋んだ後、僕の耳に智行の小さな声が響いた。
彼は赤ちゃんに戻った僕に添い寝をして、僕がオムツを濡らすのを待っているようだった。
さっき僕は智行がおもらしするところを見たいと彼に言った。そしてその言葉にはまったく嘘がなかった。
罰ゲームをおもらしと決めて彼とゲーム対戦をした時、僕はいつもその思いを抱えて本気でゲームに勝ちにいった。 でも…途中で必ずその思いが萎えてしまった。
たしかに智行のおもらしを見たいという気持ちは強かったけど、僕自身がおもらししたいという気持ちの方が常に勝ってしまったんだ。
僕がいつも肝心なところでミスをしたのは、遠い昔におもらしした時の記憶を思い出してしまったせいだ。
智行は僕にとって太陽のような存在だった。
太陽に見つめられておもらしするのがどれほど気持ちいいかという事を、僕はずっと前から知っていた。
智行は気づいているだろうか。
初めて彼の部屋でおもらしした日、僕は智行の目を盗んで押し入れにあった紙オムツを1つだけ家へ持ち帰った。
紙オムツを身に着けておもらしする快感を知った僕は、家へ帰ってもう一度同じ快感を得たいと思ったんだ。
でも実際は家で1人でおもらししてもちっともいい気持ちになんかなれなかった。
しかも濡れてしまったオムツをこっそり始末する時には自分がバカみたいに思えた。
その時僕はようやく気づいたんだ。太陽に見守られていなければ、おもらしの快感が決して得られないという事を。

 「…おしっこ」
僕は彼に小さくそう囁いた。
ついさっきまでまったく尿意を感じてなんかいなかったのに、紙オムツを身に着けた途端におしっこがしたくなってしまったからだ。
これはトイレに行った途端におしっこがしたくなる現象とよく似ていると思った。
「ナオ、我慢しなくてもいいよ」
耳に降り注がれる彼の吐息も、ぎゅっと抱きしめてくれる彼の腕も、太陽と同じぐらい温かかった。
瞼の向こうに感じる明るさは、もしかして智行が放っている光だったのかもしれない。
僕は彼の腕に抱かれて体の力を抜いた。
すると身に着けたばかりの紙オムツが自然に少しずつ温かく濡れていった。それと同時に僕の体が表現しようのないほど強い快感に襲われた。
智行に見つめられておもらしするのは、射精した時と同じぐらい気持ちがよかった。
体がフワフワ浮くような感覚を味わい、頭の中が真っ白になった。

 僕は少しずるいのかもしれない。
僕はおもらしの誘惑に勝てず、結局は智行とのゲーム対戦にいつも負けた。そして彼におもらしする快感を決して与えようとはしなかった。
智行は一度だけ僕の前でおもらしした事がある。
彼はあの時おもらしする快感を知ってしまったはずだ。 それを知った彼は自分でも意識しないうちにもう一度おもらしする事を望んでいたはずだった。 それなのに、僕はずっと自分ばかりいい思いをしてきた。
智行、いつも僕ばかりいい思いをしてごめんね。
今日は一晩中一緒にいられるから、気が向いたら何度でも秘密のゲームを繰り返そう。
今夜は1回ぐらい僕が勝ってあげるよ。
智行にもっともっとおもらしの快感を知ってほしいから。
それに、紙オムツを身に着けた君をぎゅっと抱きしめてみたいから。
END

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