恋の駆け引き
和成くんは4つ年上の従兄弟。彼は現在18歳。和成くんは、とってもかっこいい。顔のパーツはどれもはっきりしていて、少し長めの髪はサラサラだ。
背が高くて、色白で、昔から僕の憧れだった彼。
僕が彼と会えるのは、年にたったの一度きり。
和成くんは、お正月になると毎年両親と一緒に僕の家へ遊びに来る。
たった今、年に一度しか会えない彼が僕の目の前でおもらしした。
ここは、僕の部屋。
和成くんは白いドアの前に立ち、足元に広がっていく水たまりを呆然と見つめていた。
彼の灰色のズボンは太もものあたりまでびっしょり濡れてしまい、そこだけ色が変わっていた。
静かな部屋の中にはシーッというおしっこの音が響き、その酸っぱい香りが充満した。
僕は彼のズボンから大量の水が滴り落ちる様子をコタツに入ってじっと見つめていた。
窓から入り込む午後の日差しが、彼の作った水たまりを白く照らした。
ちょうどおしっこの音が止んだ時、ドアの向こうから僕の部屋へ近づいてくる人の足音が聞こえてきた。
トントントン。
この軽快な足音はママの足音だ。
和成くんはその音が聞こえているのかいないのか、ドアの前から一歩も動こうとはしなかった。
僕はこの状況をなんとかしなければいけないと思った。 大好きな和成くんに決して恥をかかせるわけにはいかないからだ。
僕は素早くコタツを抜け出し、和成くんに近づいて彼の耳にこう囁いた。
「押入れに隠れて。早く」
放心状態の彼は不安そうな目で僕を見つめていた。でもこれ以上詳しく説明している余裕はなかった。
僕たちにはもう時間がなかった。ママの足音は、僕の部屋へとどんどん近づいていた。
「早く隠れて」
僕がもう一度そう言うと、和成くんはやっと部屋の奥にある押入れに逃げ込んだ。
この時僕は次に自分がどうするべきかちゃんと分かっていた。
僕はドアの内側に存在する大きな水たまりの真ん中に立ち、ズボンをはいたまま急いでおもらしをした。
すると、あっという間に僕のズボンは水浸しになった。最初から大きかった水たまりは、もっともっと大きくふくらんだ。
ほんの短い時間でおもらしを済ませると、その瞬間に外側からドアが開いてママが僕の部屋を覗き込んだ。
「裕介、トイレが空いたわよ」
腰にエプロンを巻いたママは、にこやかに微笑んで僕にそう言った。 でも僕の足元に水たまりを見つけると、ママの表情が突然曇った。
「裕介、おもらししちゃったの?」
ママは大きく目を見開き、ズボンを濡らして水たまりの真ん中に立つ僕を眺めていた。この時ママはすごく驚いた様子だった。
僕はその瞬間に泣き出して、ママに苦情を訴えた。
「僕がおもらししたのはママのせいだよ。ママがトイレを占領してるから我慢できなくなっちゃったんだもん」
僕は声を上げて泣きながらとにかくママを責めた。これには和成くんの思いを代弁する意味もあった。
和成くんはさっきからおしっこがしたくて何度もトイレのドアをノックしに行ったんだ。 でもママはなかなかトイレを出ようとせず、ドアの内側からノックを返すだけだった。
この時ママはトイレのドアをノックしたのが僕だと思い込んでいた。それは、僕にとっても和成くんにとっても幸運だった。
嘘泣きは僕の得意技だった。今まで僕はこの技を使って様々な修羅場をくぐり抜けてきたんだ。
「ごめんなさい。ママが悪かったわ」
ママは僕の目の前に立ち、白いセーターの袖口で頬に流れる涙を拭いてくれた。それでも僕はまだ泣き止まず、延々と涙を流し続けた。
時々冷静にママの表情を盗み見ると、彼女が慌てている事はすぐに分かった。 きっとママは和成くんの前で僕に恥をかかせたくなかったんだ。
「裕介、和成くんは?」
「奥の部屋にいる」
「そう。じゃあ和成くんが戻ってくる前に早く着替えなさい」
ママの言葉に僕がうなずくと、彼女の白い手が優しく僕の頭を撫でてくれた。そしてママは静かに僕の部屋を出て行った。
ママが去った後も僕は水たまりの真ん中に立ってしばらく泣き続けた。
和成くんは真っ暗な押し入れの中で僕とママの会話をしっかり聞いていたはずだ。
しばらく嘘泣きを続けていると、やがて部屋の奥にある押し入れの戸が開く気配がした。
和成くんの足音が、ゆっくり背後に近づいてくる。
僕はこの時、彼に背を向けて嘘泣きを続けながら心の中でほくそ笑んでいた。
これは僕の恋の駆け引きだった。
僕はずっと前から和成くんの事が好きだった。
彼の失敗を僕の失敗に変えた事で、僕は和成くんを自分のものにできると確信していた。
しばらくすると、彼の足音が僕のすぐ後ろで止まった。その後彼は、僕の背中をきつく抱き締めてくれた。
僕たち2人は互いにズボンを脱ぐ必要がある。それを思うと、すごく興奮した。
END