卒業前に気付いた事
 ある晴れた日の夕方、隣の中学の連中と喧嘩した。
その時俺は、5人の仲間たちと共に戦った。相手は8人いたから、それは絶対的に不利な喧嘩だった。
それでも俺たちは勝った。皆で力を合わせて、あっという間に敵を倒したのだ。
「覚えてろよ!」
隣の中学の連中は、陳腐なセリフを残して退散した。
そして俺たちは、勝ち誇った顔をして逃げていく彼らを見送ったのだった。

 喧嘩に勝った後は、いつもの場所で祝勝会をした。
その場所というのは、学校の側のファーストフード店だ。こんな時は、コーラで乾杯するのがお決まりのパターンなのだった。
「あいつら、たいした事なかったな」
「俺たちに勝てるわけないんだよ」
仲間たちは上機嫌だった。皆口々にそう言って、勝利の余韻に浸っていた。
でも俺だけは、ちょっと違っていた。
俺たちは、ずっとこうして武勇伝を作り続けてきた。しかしそんな日々も、あと半年で終わりを遂げる。
それを思うと、本当に淋しくてたまらなくなる。
中学の3年間はあっという間だった。時間が早く過ぎたのは、仲間と一緒にいるのが楽しかったせいだ。
それなのに、卒業すると皆バラバラになってしまう。
今は全員茶色の長髪だけど、受験前にはその髪を切り落とす事になるだろう。 体に馴染む学ランも、もうすぐ用なしになってしまう。
皆で誰かに喧嘩を吹っかける事も、馴染みの店で祝勝会をする事も、きっとなくなるに違いない。 こうして考えれば考えるほど、俺は淋しくてたまらなくなるのだった。
「おい、飛沢だぜ」
俺が感傷に浸っていた時、仲間の1人が窓の外を見てそう言った。
つられて外に視線を向けると、思わずため息が出た。

 ガラス越しに手を振っていたのは、同じクラスの飛沢だった。
彼は不良の俺たちとはまったく違う人種だ。坊主頭で、ジャージ姿で、恐らく喧嘩とは無縁な男だ。 今は西日に照らされて、鼻の頭が光っている。
飛沢はひとしきり手を振った後、迷わず店へ入って俺たちの側へやってきた。
こんな時仲間たちは、何故かいつも俺の隣に彼を座らせるのだ。
「楽しそうだね。皆で何話してたの? 僕も仲間に入れてよ」
彼は席へ着くなりそう言って、皆の顔を見回した。
飛沢という奴は、昔から物怖じしない性格なのだ。
札付きの不良集団になんか、普通は誰も寄り付かない。実際マジメなクラスメイトは、俺たちと目を合わせる事もしない。 この店の客だって、誰もがこっちの方を見ないようにしている。
ところがこいつだけは違うのだ。飛沢だけは、いつもこうしてすんなり俺たちの輪に入り込んでくる。
仲間たちは、そんな彼をまるでおもちゃのように扱っていた。
「飛沢、お前最近イケメンになったな」
「そのジャージもかっこいいぜ」
「坊主頭にも磨きがかかってるしな」
「そういや背も伸びたんじゃないか?」
ニコニコ微笑む彼に向かって、皆が次々とそんな言葉を浴びせた。
でもそれは、決して褒めているわけではない。単純にからかっているだけなのだ。
地蔵のような顔が突然イケメンになるはずはないし、毛玉の付いたジャージが流行るはずもない。 身長だって、どう見ても2年前から160センチで止まっている。
なのに飛沢は、自分がからかわれている事に全然気付かないのだった。
まったくアホというか鈍感というか…とにかく彼は、そんな奴だ。
「本当? 僕かっこよくなった? ねぇ、田丸くんもそう思う?」
彼はとても嬉しそうな声で俺に問い掛けた。
その顔は、いつも通りに目が細く、いつも通りに鼻が低い。
どう返事をしていいか迷っていると、そのうちに不良仲間の低い笑い声が聞こえてきた。
しかし飛沢は、自分が笑われている事にもちろん気付かないのだった。

*   *   *

 それから3日後の夜に、ちょっとした事件が起こった。
その日は学校が終わると、仲間たちと一緒にカラオケボックスへ行った。 そこで散々盛り上がった後、皆と別れたのが午後10時頃だ。
それから俺は、真っ直ぐ家へ帰るつもりだった。ところがその日は、すんなり帰宅というわけにはいかなかったのだ。

 カラオケボックスは駅の裏にあった。俺はそこを出てから、ずっと1人で高架下を歩いていった。
そこは市営の駐車場になっていて、右にも左にも車がぎっしり並んでいた。
上には線路があったので、5〜6分おきに電車の走る音が頭上に響いた。でもそれ以外は、辺りはとても静かだった。
オレンジ色の外灯が、行く手を淡く照らしている。俺はその光を見つめながら、家へ帰って飯を食う自分を連想していた。
「田丸くん!」
誰かに突然呼び止められたのは、そんな時の事だった。
その声があまりに近い所で聞こえたので、俺はかなり驚いた。そして素早く振り返ると、すぐそこにジャージ姿の飛沢が立っていた。
「どこから来たんだ? 全然気配を感じなかったぞ」
「そこの塀を乗り越えてきたんだよ」
飛沢は、車の向こうにあるフェンスを指さして微笑んだ。俺はそれで納得したけど、それにしてもすごく驚いた。
「こんな時間に何してたんだ?」
「田丸くんこそ、何してたの?」
「家へ帰るところだよ。今カラオケに行った帰りなんだ」
「ふぅん。僕も一緒に行きたかったな」
俺の言葉を聞くと、彼は少し淋しそうな顔をした。その時また電車の走る音が頭上に響き、一旦2人の会話は中断した。

 そして不意に、ピンチが襲ってきた。どこからともなく数人の男が現れ、素早く飛沢の背後に迫ってきたのだ。
その連中が誰なのかは、すぐに分かった。俺はその男たちが着ている制服に見覚えがあったのだ。
明るい青のブレザーと、黒に近い灰色のズボン。彼らは3日前に喧嘩をした、隣の中学の連中だ。
俺が気付いた時、もうその連中との距離はわずかだった。
そいつらは鉄パイプのような物を振りかざし、こっちに向かって何かを叫んでいるようだった。 でも頭上に轟音が響いていたから、何を言っているかはまったく分からなかった。
「やばい、逃げるぞ!」
俺は慌てて飛沢の腕を掴み、彼らに背を向けて駆け出した。隣の中学の連中は、仕返しをしに来たに違いないからだ。

 電車の走る音が消えると、背中の後ろに怒号が響いた。俺たちを追いかける足音が、少しずつ少しずつ近付いてくる。
「待て、この野郎!」
「絶対逃がすな」
「殺してやる!」
決して大袈裟ではなく、今捕まったら本当に殺されると思った。だから俺は、前だけを見つめて必死に走った。
恐らく飛沢は、危険な現状をまったく理解していなかっただろう。
それでも彼は、一緒に走り続けた。オレンジ色の外灯を、いくつもいくつも追い越しながら。
「ねぇ、あの人たちは誰なの?」
「この前喧嘩した奴らだ。俺たちにボコボコにされたから、仕返しに来たんだよ」
走りながら事情を話した時、2人の息は上がっていた。敵の足音は、更に近付いているようだった。
「じゃあ、逃げなきゃやばいじゃん!」
「だからこうして逃げてるだろ?」
「僕に任せて。あの赤い車の手前を、右に曲がるよ」
そう言われて右の方を見ると、少し先にピカピカの赤い車があった。 俺たちは全力で走り続けていたから、そこへはあっという間にたどり着いた。
「さぁ、曲がるよ」
なんだかよく分からなかったけど、彼に言われるままに走る方向を変えた。
するとすぐ目の前にフェンスが迫ってきた。 しかしよく見るとそこだけフェンスがちぎれていて、人が1人通り抜けられるスペースが空いていた。

 高架下を抜け出してからは、飛沢に手を引かれてクネクネと曲がる小道を四方八方へ走り回った。
彼の小さな手は、すでにびっしょり汗をかいていた。でも細い背中は、何故か妙に頼もしく見えた。
その付近には人の住んでなさそうなボロアパートや、明かりの消えた商店などが並んでいた。
通りには外灯がほとんどなくて、行く手はどんどん暗くなり、どこをどう走っているのか途中でよく分からなくなった。
追手の足音は、さっきまでよりずっと遠く聞こえた。それでもその音は、絶え間なく耳に飛び込んできた。
「ここに隠れよう」
ある時飛沢が立ち止まり、右手にある小さな物置小屋の戸を開けた。
それは背が低くて幅の狭い、本当にこじんまりした物置小屋だった。 もちろん中は真っ暗闇で、足を踏み入れた途端に頭に何かがぶつかった。
「いてっ!」
頭の痛みを堪えながら、手探りで2人が入れるスペースを確保する。
俺たちはなんとか体を押し込んだけど、互いが床に座るとほとんど身動きができない状態だった。
中から木の戸を閉じると、まずは呼吸を整えるべく少ない空気を吸い込んだ。
ちょっとでも手足を動かそうとすれば、必ず何かに触れて小さく音が出る。 右手と右足は飛沢の体に密着していて、そこから彼の熱が俺の方にまで伝わってきた。

 やがて木の戸の向こう側に連中の足音が響いた。
その音があまりにも近すぎて、思わず暗闇の中で目を閉じる。何しろ彼らは、薄い板1枚挟んだすぐ向こうにいるのだから。
「あいつら、どこへ行ったんだ?」
「俺はあっちを探してみる」
「分かった。絶対見つけるぞ!」
そんな会話が飛び交った後、一旦足音は散っていった。すると辺りに、束の間の静けさが漂い始めた。
飛沢が短く喋ったのは、ちょうどその時だ。
「大丈夫。きっとそのうち諦めるよ」
それは囁くような声だった。俺はしっかりと目を閉じたまま、黙って小さくうなずいた。

 その後も彼らの足音は、時々俺たちに近付いた。それでも物置小屋の中を覗く奴は、誰1人いなかった。
「おい、ここはどこなんだ?」
少し気持ちが落ち着いたところで、基本的な質問を飛沢に向けた。
一見メチャクチャに走ったように思えたけど、彼はこの付近の事を知り尽くしているようだった。
「さっき古いアパートがあったの覚えてる? ここはあそこの大家さんが使ってた物置なんだ。 でもここは、ずっと前から放置されてるんだよ」
「随分詳しいんだな」
「僕の家、ここから近いんだ」
「あぁ、そうか」
短い会話を交わした後に、またこっちへ近付く人の気配を感じた。そして俺たちは、息を潜めた。
彼らは相当しつこくて、なかなか諦めてはくれないようだった。

 連中の足音や話し声が聞こえてくるたびに、俺はいつもビクビクしていた。
本当の事を言うと、狭い所も苦手だし、暗闇も大嫌いだ。 もしも飛沢が一緒にいなかったら、俺はとっくにここを出ていたかもしれない。
3日前の喧嘩の記憶が、鮮明に頭に浮かび上がる。
俺はあの時、誰かの頭を蹴りつけた。それに、誰かの顔をぶん殴った。
うずくまって震えている少年を指さして笑った事も、もちろんちゃんと覚えている。
あれはいったい何のための喧嘩だったのか。それはちっとも分からない。
ただ、誰かを傷付けて楽しんでいた。俺たちは、ずっとそんな事ばかりを繰り返してきたのだ。
でも自分だけでは、こんなに心細い。こっちに仲間がいれば、喜び勇んで喧嘩を始めるくせに。
だけどそんな事は、もうやめにしよう。中学の卒業と共に、くだらない喧嘩も卒業だ。
それは少し淋しい気もする。でもきっと、そうする事で大人に一歩近付くのだろう。
「田丸くん……」
1人であれこれ考えていた時、飛沢が小さく俺を呼んだ。それまでは、一瞬彼の存在を忘れていた。
「どうした?」
「おしっこしたい」
「え?」
小声で会話を交わしていると、少し離れた所でまた足音がした。
それと同時に、木の戸が短くガタガタと音をたてた。それは風のせいだと分かったけど、やはり心臓は高鳴った。
飛沢の体の震えが、腕や足へと伝わってくる。さっきまでは、まったくそんな事はなかったのに。
「おしっこ……」
「我慢しろよ!」
「無理だよ」
「頼むから、もう少し我慢してくれ」
「そんな事言ったって……」
俺は焦った。彼の体の震えが、どんどん大きくなるのが分かったからだ。
飛沢はなんとか尿意を堪えているようだけど、恐らくギリギリのところまできている。
しかし追手の足音は、まだ消え去る気配がない。今ここを出るのは、あまりに危険すぎるのだ。
「あと5分待てば、奴らは諦めるよ。だからなんとかがんばってくれ」
それが気休めだという事は分かっていた。でも、そんな事ぐらいしか言えなかった。
周りは真っ暗闇で、しかも気持ちに余裕はない。そんな状況では、ろくな考えが浮かばなかったのだ。
「5分なんて、そんなに待てないよ」
余裕がないのは飛沢も同じだった。彼の泣きそうな声が、それを物語っている。
その時は、俺の意に反して彼が外へ出て行く事も覚悟した。
そうなったら、本当に腹をくくるしかない。勝ち目があろうとなかろうと、奴らと戦わなければならないのだ。
でもその最悪のシナリオは、それからすぐにボツになった。

 飛沢の体の震えが、いきなりピタリと止んだ。その瞬間、真っ暗闇の狭い空間にジャーッと低い音が響き渡った。
ツンとした匂いが、辺りに立ち込める。
何も言わなくても、事は明らかだった。飛沢は、我慢できずにとうとうおもらしをしてしまったのだ。
その勢いからいって、少し下着を濡らす程度のものではなさそうだった。
おもらしをしてズボンにまで水が沁みていく気持ち悪さは、幼い頃の経験で容易に想像がつく。 飛沢は今、その不快さを存分に味わっている事だろう。
しかもここでは身動きができない。
お尻の下が冷たくても、腰を上げる事は不可能だ。 濡れたズボンを脱ぎたいと思っても、手足を動かす事すらままならない。
おしっこの音はそれほど大きくなかったから、外まで響く事はなかっただろう。
でももうそんな事はどうでもよかった。俺の心の中は、罪悪感でいっぱいだったのだ。
3日前につまらない喧嘩をしたおかげで、俺たちは今逃げたり隠れたりするような状況に陥った。 そんな事に巻き込んで、飛沢には本当に申し訳ない事をしてしまった。
今夜俺と出会わなければ、彼がおもらしするような事はなかったはずなのに。

*   *   *

 追っ手が去った事を覚った後、俺たちは静かに物置小屋を出た。
夜空の月は、半分雲の陰に隠れていた。何十分も硬い床に座っていたせいで、その時は足腰がとても痛かった。
飛沢のズボンはびしょ濡れだった。座っておもらししたためか、前にも後ろにも大きなシミができていた。
でも俺は、できるだけそれを見ないようにした。地蔵のような飛沢の顔も、その時はほとんど見なかった。
「遅くなったから、家まで送るよ」
それから2人は、夜風に吹かれて歩き始めた。
クネクネ曲がった小道を歩く時、彼はいったい何を思っていたのだろう。

 外灯のない通りをゆっくり進むと、2人の足音がやけに大きく聞こえた。それは恐らく、全然会話がなかったからだ。
俺が無口なのは、心に潜む罪悪感のせいだった。胸があまりに重苦しくて、ジョークの1つも言えやしない。
チラッと見たおもらしのシミは、半端じゃないほど大きかった。 そのシミの大きさは、自分の罪の重さと比例しているように思えてならなかった。
雲の隙間から覗く月は、無口な2人をずっと照らしてくれていた。 暗闇が苦手な俺にとっては、わずかな月明かりがとてもありがたかった。

 それからしばらく歩くと、飛沢は四角い家の前で立ち止まった。黙っていても、そこが彼の家だという事はすぐに分かった。
門灯も消えているし、窓には明かりがまったくない。その様子を見る限り、中には誰もいないようだった。
家の前に立った時、俺はやっとまともに飛沢の顔を見た。
相変わらず目が細くて、相変わらず鼻が低い。しかしその時、いつもの笑顔は失われていた。
彼はまるで無表情だったけど、おもらしをして落ち込んでいないはずはなかった。
「家に寄って。1人じゃ淋しいから」
そんなふうに言われると、とても断れなかった。
いつもニコニコしているはずの彼が、笑いもせずに淋しいと言うのだから。

 彼の部屋は、青畳の匂いがした。薄明かりを点けると、ぼんやりと机や箪笥の姿が浮かび上がる。
「今着替えるから、待っててね」
飛沢は、俺の目を見て静かにそう言った。
坊主頭に手を伸ばして、2〜3度そっと撫でてやる。今の俺にできる事は、そのぐらいの事しかなかったからだ。
それから彼は、俺の目の前で濡れたズボンをスッと下ろした。
小さく息を吸うと、微かにツンとした匂いを鼻に感じる。
気が付くと、薄明かりの下にちっぽけなペニスが晒されていた。 周囲に毛はほとんど見当たらず、下半身はまるで赤ん坊のそれだった。
ところがペニスはいつまでもちっぽけなままではなかった。俺がじっと眺めていると、あっという間に大きくなってきたのだ。
シュンと俯いていたものが、幅を広げて上を向く。そうなると、そのサイズは見違えるほどに巨大化していった。
「何見てるの? エッチ」
からかうようにそう言われて、地蔵のような顔をじっと見つめる。
飛沢は、いつものようにニコニコと微笑んでいた。
おもらしして落ち込んでいるかと思いきや、そんな事はもうすっかり忘れてしまっているようだ。 一瞬そんな彼に呆れたが、その笑顔は俺の罪悪感も忘れさせてくれた。
「田丸くん、好きだよ」
その後彼が、いきなり抱きついてきた。
俺はいつもの笑顔を見て安心しかけていたのに、今度はその行動に仰天した。
むき出しのペニスが、太ももに当たる。それは石のように硬く、炎のように熱かった。
「ずっと好きだったのに、全然僕の気持ちに気付いてくれなかったよね。田丸くん以外は、クラス全員が気付いてるのに」
胸にその言葉が突き刺さった瞬間、突然何かが閃いた。
坊主の頭越しに、少し開いた箪笥の引き出しが見える。 俺はそれをぼんやりと見つめて、今まで不思議に思っていた事を繰り返し思い出していた。
不良仲間と一緒にいる時、たびたび飛沢がその輪の中に入ってきた。
すると皆は、必ず俺の隣に彼を座らせた。 そこに誰かがいる時は、わざわざそいつが立ち上がってまで飛沢に席を譲るのだ。
そんな時は、いつも本当に不思議に思っていた。皆が何故そんな事をするのか、皆目見当がつかなかったのだ。
しかし今、その訳がやっと分かった。
仲間たちは、とっくに彼の気持ちに気付いていたのだ。だからいつも気を利かせて、特等席を譲っていたのだ。
皆が飛沢を褒めるのも、別にからかっていたわけではないのかもしれない。 無理矢理彼の良さをアピールして、俺をその気にさせようとしていたのかもしれない。

 飛沢はペニスをさらけ出したまま、こんな形で俺に告白をした。
せめて着替えを済ませてからの方がまだ格好が付くというのに、そこまで気が回らないのが彼なのだ。
まったくアホというか鈍感というか、とにかく彼はそんな奴だ。
しかし俺は、その飛沢よりもっともっと鈍感な人間だったのかもしれない。
END

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